デス・オーバチュア
第73話「デッドエンド・ソリュージョン」



かつてのブラックの首都にはもう何もなく、誰もいなかった。
闇の姫君と呼ばれる唯一人の魔族の手によって全ての住人は皆殺しにされ、静寂の廃墟と化している。
正確に言えば運の良かった子供一人だけが見逃されたのだが、それでブラックという国が滅んだという事実が翻ることはなかった。
首都以外の国は全て滅んだわけではないが、首都が支配者ごと丸ごと無くなっては国というシステムが存続することはできない。
「……あれは……魔導機か、珍しい」
ブラックの廃墟、かつて城があった場所に立っていた男は空の彼方から飛来した紫の閃光を目撃した。
巨大な紫の閃光は流星のように地上に激突したようである。
「……それにしても、ブラックの支配者達も哀れなまでに間抜けだな。おそらくファントムに支援していたブラックの支配者共は、自分達の足下に彼等が潜んでいたことも知らなかったのだろう……なんと間抜けな話だ」
男は自分の足下を踏み鳴らした。
「元々は黒の水晶柱が設置されていた大空洞……そこをそのまま本拠地として利用とはな……」
「せこい話ね。そのせいで、クリアの宰相に自分達の本拠地を推理されて、今こうして攻め込まれることになっているじゃない」
男の連れの女が口を挟む。
「エランか……おそらく彼女はファントムの七国侵攻の前からここがファントムの本拠地だという推理にかなりの確信を持っていたのだろう。だから、七国侵攻の際、この国にだけ防衛の戦力を送らなかった……ブラックが悪党共の国だから見捨てたわけではあるまい。元からこの国も、黒の水晶柱もファントムの物だと知っていたからこそ、貴重な戦力をここに割かなかった……我が後釜ながら賢い女だ」
「へぇ……貴方が他人を誉めるなんてね」
女はなぜか不愉快そうだった。
「……なんだ、嫉妬か?」
「はっ! 悪すぎる冗談ね。それより、いつまでもこんな所に居ても意味ないでしょう。さっさと行くわよ」
女は苛立ちを隠そうともせず男を急かす。
「慌てるな。ここからかなり歩くと海岸に出る……そこの洞窟がファントムの本拠地への入り口だ」
「……何よ、歩くの?」
「仕方あるまい、君はこの国どころか、この大陸に来るのも初めてだ。ブラック王城などといったイメージしやすく、座標の割り出しも容易な場所ならともかく、ブラックの海辺の洞窟などという曖昧な場所に転移はできまい?」
「場所を知っている貴方が転移すればいいだけじゃない!」
「私は君と違ってただの人間だ。転移などできん」
「……うそつき……」
女はこれ以上言い合っても無駄と判断し、男から顔を背けた。
「……ねえ、ここももうファントムの本拠地よね?」
何か思いついたのか、女は地面を睨みつけながら尋ねる。
「……ん? そうだが……ファントムの首都全ての地下がファントムの本拠地と言っていい程の広さがあるが……待て! 君は何をするつもりだっ!?」
常に冷静だった男が初めて焦りを見せた。
連れである女の性質を誰よりもよく知っているからこそ。
「はぁぁぁぁぁぁっ……」
女は右足を少し地面から上げた。
「よさないか! 地下といってもどれだけの深さがあると思っているのだ。い……」
「あああああああああああああぁぁぁっ!」
女の耳に男の制止の声は届かない。
「神気発勁(しんきはっけい)!」
廃墟を埋め尽くすような白い閃光と共に、女は大地を踏み抜いた。



「……なんだ、あれは?」
天井を貫いて、飛来したのは紫の巨人。
紫色の光沢を放つ全身鎧……十メートル近い巨大な甲冑の化け物が堂々と立ちはだかっていた。
「魔導機だ。魔導技術の粋を集めて生み出された究極の戦闘兵器……魔導師に育てられたお前なら聞いたことぐらいはあるだろう?」
「あれが魔導機……思い出した一度だけ……一体だけ見たことがあった……」
あれは四、五歳の頃、立ち入りを禁じられていた部屋に好奇心から忍び込んだ時。
無数の用途不明の機械設備の中に漆黒の巨人が安置されていた。
「……レイヴン?」
タナトスは無意識に呟く。
巨人の足下のプレートには古い時代の文字で確かそう書かれていたはずだった。
「ああ、皇……あの魔導師の愛機の名前ですね。残念ながら、パープルガーディアンはあそこまでのクラスではありません。何せ、私と同じでたったの千年前……魔導など廃れきった時代に制作された魔導機ですからね……魔導時代の絶頂期に活躍した伝説の機体には及ぶべくもありません」
「伝説の機体?」
「ええ、剣に例えるなら、レイヴンは十神剣クラス、このパープルガーディアンはただの良質の鋼の剣クラスです。ですが、今の時代では……魔導機というだけで充分驚異になるのです!」
紫夜が突然跳躍すると、巨人の肩に飛び乗る。
「では、お相手させていただきます」
紫夜の姿が巨人の背後に消えた。
おそらく、背中に搭乗口があり、巨人に乗り込んだのだろう。
「くっ……」
タナトスは懐から二本の短剣を取り出した。
しかし、タナトスはすぐには攻撃に移らない。
いや、移れなかった。
あの巨体にこんな小さなナイフが歯が立つのだろうか?
「……スケールが違いすぎる……せめて、魂殺鎌があればまだ話は別だが……」
「ああ、そうだ知っているかも知れないが、魔導機は呪印処理されているから、人間サイズの魔術や魔法は一切通用しないぞ」
リーヴは壁にもたれかかり、他人事のように言った。
というか、完全に観戦モードに入っているというか、自分が戦うつもりは欠片もないようである。
「無意味な忠告だ……私は魔術や魔法は一切使えない!」
タナトスは自棄になっているのか、怒鳴るように答える。
「魔術がまったく使えない? 馬鹿な、お前、それだけの『力』が溢れているのに……いや、待て、確かにお前の力は魔ではなく……」
『覚悟はよろしいですか? 来ないならこちらから参りますよ?』
紫の巨人の中から響いてくる紫夜の声がリーヴの声を掻き消した。
「駄目元で行くしか……ないっ!」
タンという音と共にタナトスの姿が消える。
「……斬れるか?」
タナトスの姿は巨人の右足元に出現していた。
「……滅!」
鈍い金属音が辺りに響き渡る。
「……くっ、駄目か」
『いいえ、傷を付けただけでも充分ご立派ですよ』
巨人の右足に『線』が走っていた。
金貨で金属の壁をこすりつけた際にできるような線……つまり一応は傷である。
しかし……。
「ダメージが皆無では無意味だ……」
タナトスは巨人が反撃してくるより速く、後方に跳び、最初の立ち位置に戻っていた。
「ふむ、そのナイフ、何でできている? 折れなかったことの方が私には驚きだぞ」
リーヴが呑気にそんなことを尋ねてくる。
「私の見立てでは、あの機体、ミスリル(魔法銀)とオリハルコン(精神金属)の中間ぐらいの硬度だな……何でできているかまでは判別できないが……」
「……つまり、魂殺鎌なら斬れるということか」
魂殺鎌さえ、今この手にあれば……。
あの巨体という問題は別にして、相手を斬ることは可能なのだ。
『魔法を受け付けない、通常の武器の刃が通らない……それだけが取り柄の巨体と誤解されては困ります。では、今度はこちらから行きますよ』
紫夜の言葉が終わると同時に巨人の姿が消滅する。
「なっ……?」
「馬鹿、後ろだっ!」
リーヴの声と、背後に気配を感じたのはまったくの同時だった。
タナトスは後ろを確認するのではなく、前方に向かって全力で跳躍する。
その判断は正しかった。
凄まじい轟音と共に、タナトスが先程まで立っていた場所に巨大なクレーターが生まれる。
クレーターの中心は紫の巨人の右拳だった。
つまり、巨人は一瞬でタナトスの背後に回り込み、タナトスを拳で殴り潰そうとしたのである。
『これが魔導機の本来の性能です。搭乗者の速度を巨人のスケールで完全に再現……いえ、二倍、三倍に増幅すらする。まさか、この時代のパーツでこの機能を蘇らせるとは流石としか言いようがありません』
「搭乗者とまったく同じ速度?……馬鹿な……」
タナトスは紫夜の今の言葉が信じられなかった。
今の巨人の動きはタナトスと同等の速度、いや、僅かにタナトスより速いかもしれない。
自分より速いということが信じられないのではない、あの巨体でその速度というのが信じられなかった。
「常識を外れるにも程がある……」
「常識や物理法則など忘れろ。それを言ったら、あの巨体が二本足で立っているだけでも無理が生じるのだからな」
「……自重で潰れないぐらいなら文句は言わない……」
使われている金属が特殊な上に、呪印処理……魔術魔法の力も借りているからだと納得できなくはない。
だが、物には限度があった。
あんな巨体が『目に見えない速度』で動く!?
「……ふざけるなっ!」
タナトスは瞬時に巨体の左足の前にまで移動すると、短剣を突きつけた。
響き渡る金属音。
「くっ! やはり、駄目か!?」
巨人の左足の装甲は僅かにへこんだだけだ。
巨人のサイズから考えれば虫に刺された程度だろう。
『では、また私のターンですね』
「ターン?」
『交代で攻撃し合うのではないのですか?』
巨人の中からクスクスという笑い声が聞こえてきた。
紫夜は完全に遊んでいる。
タナトスは舐められているのだ。
その気になれば、いつでも一瞬で一撃でタナトスなど殺せると……。
『気分はハエ叩きでしょうか?』
巨人は背中から巨大なハンマーを取り出すと、振りかぶった。
そしてそれを、迷わずタナトスに向けて振り下ろす。
凄まじい音をたててハンマーは大地を粉砕した。
タナトスはギリギリで後方に跳び回避する。
「……せめて、魂殺鎌が……魂殺鎌があれば……」
今ほど、あの大鎌を求めたことはなかった。
忌み嫌っていた死神の大鎌。
あの大鎌のせいで、自分は大量殺人を……永遠に許されない罪を背負ったのだ。
手放せるものなら、手放したいと何度思ったことだろう。
けれど、手放すことは、捨てることはできなかった。
あの大鎌はどこに置き忘れようが、捨ててこようが、いつのまにか自分の側に戻ってくるのである。
「……ん?」
『あ、気がづいた?』
聞き覚えのある声がタナトスの内側から聞こえてきた。
「リセット!?」
聞き間違えるはずがない、今の声は間違いなくリセットの声である。
『あ、声に出さない方がいいわよ。『思う』だけで通じるから……というか、私の声は音じゃない……あなたの脳裏に直接響くの。まあ、つまり、私の声はあなた以外に聞こえないから、声に出して喋ると、独り言を言ってる変な奴に思われちゃうわよ』
「…………」
絶対の自信を持って言える……こいつは間違いなくリセットだ。
こんな性格の別人など居るはずがない。
(リセット、一体何がどうなってるのか説明を……)
「うっ!?」
タナトスは自分を叩き潰そうと襲ってきたハンマーを辛うじてかわした。
『説明聞いてる余裕ないでしょう?』
「…………」
確かにリセットの言うとおりまったく余裕はない。
巨人は自分と同等以上の速度で動くのだ。
一瞬でも気を抜いたら、その瞬間にペチャンコにされるだろう。
『だから、私のことはちょっと置いておいて……今は、アレを呼びなさいよ』
(……呼ぶ?)
『さっき、タナトスも思ったでしょう? アレは嫌でも自分につきまとってくるって……』
「…………」
『今はあまりに距離と時間が離れすぎて、あなたを見失ってるけど……呼べばきっとあなたを見つけてくれる。だって、魂殺鎌はあなたの……』
「………………」
あの大鎌を呼べというのか? あの大鎌と共にあることを自ら望めと?
『自分の半身を捨てて生きていくなんてできないのよ、タナトス。呼びなさい、あなたの半身を! 距離も時間も、次元すら超えて……』
タナトスは巨人のハンマーを紙一重でかわしながら、悩み、考え、ついに結論を出した。
(解った……望んでやる!)
『おっ?』
(大鎌のない死神など間抜けだからな)
タナトスは自嘲を通り越し自虐的な、だが、同時に何かを割り切ったような爽やかな笑みを浮かべる。
「来い、魂殺鎌! 私はお前と共に破滅の道を歩むっ!」
タナトスは宣言と共に左手を天高くかかげた。
左手の甲に浮かび上がるは黒い契約の紋章。
直後、天を切り裂くような黒い雷が降った。
黒雷はタナトスの左手の中で一つの形を成す。
漆黒の大鎌、死神には必要不可欠な半身たる武器だ。
『なっ!? それは……』
巨人から紫夜の驚愕の声が聞こえる。
「……結局、私は骨の髄から死神なのだ……」
魂殺鎌を手にした瞬間のこの充実感、安堵感はなんだ?
リセットの言うように、文字通り失っていた半身を取り戻したような気分である。
「……破!」
タナトスは無造作に大鎌を振り下ろした。
刃の突き刺さった場所から灰色の風が巨人に向かって走る。
『つっ!』
巨人はその巨体からは考えられない身軽さで跳躍し、地を走る灰色の風……死気の刃をかわした。
だが、巨人の左腕に巨大な死気の刃が直撃する。
死気が直撃した部分から巨人の左腕が刎ね飛んだ。
『……馬鹿な!? 一撃でパープルガーディアンの左腕が……ありえない!』
「そうか、死気の刃はてっきり生物……生きてる者にしか効かないかと思っていたが……無機物……金属にも効くのか」
『生きた金属を死んだ金属に変える……つまり、風化や腐蝕を起こさせるのね? 後、衝撃による金属疲労とかも起こさせるのかな? いや、ただ単に衝撃波で破壊したのかも?』
「原理はどうでもいい……」
そう言った難しいことは全てリセットに任せる。
自分はただ……。
「ただ相手を倒すだけだ!」
タナトスが大鎌を斜め一文字に振り下ろした。
直後、今度は巨人の右腕が刎ね飛ぶ。
『ああああああっ!? そんな……ありえない! ありえないぃぃっ!』
理解不能と、悲鳴にも似た声で紫夜は主張し続けていた。
『タナトス、タナトス、私やってみたいことがあるの♪』
戦闘中に相応しくない無邪気で楽しげなリセットの声が内側から響いてきた。
(……?)
『せっかく、完全に正気で死気が使えるんだし大技試しましょうよ〜♪』
(大技?)
『さっき思いついた必殺技があるのよ。私が手を貸せば絶対上手く行くわ♪』
リセットの声は好奇心や喜びに満ち溢れている。
(……解った。好きにしろ……で、どうやるんだ?)
『私に同調してね。脳裏に浮かんできた動作と言葉をそのまま素直に実行して』
(……解った)
脳裏に浮かんだイメージのままに、タナトスは大鎌を大上段に振りかぶった。
世界を支配する色が変わる。
タナトスの体から溢れ出した死気が世界を灰色一色に染めていった。
『Aeon! アイオン! 無二にして無限!』
リセットの声と同時にタナトスの体が青紫に発光する。
灰色の中の青紫。
二つの色が混ざり合い、不可思議にして美妙なる色が世界を埋め尽くした。
そして不可思議で美妙なる色の世界が巨人を包囲するような球状と化す。
「……死にたくなければ下手に動くなっ!」
タナトスは迷わず大鎌を振り下ろした。
大鎌の刃は深々と大地に突き刺さる。
「デッドエンド・ソリュージョン!」
巨人を包囲する不可思議美妙な色の空間から、いくつもの灰色の光の刃が飛び出し、巨人の体を高速で切り刻んだ。



「馬鹿げてる……お前の方が魔導機よりでたらめだ……」
リーヴは一瞬だけ驚愕の表情を浮かべた後、呆れ果てた表情で呟いた。
紫の巨人が居たはずの空間には、紫色のメイドが仰向けで倒れており、その周囲にはいくつかの金属片らしきものが散らばっている。
その金属片こそ、巨人が先程まで存在していた僅かな痕跡……巨人の残骸だった。
「球状の閉鎖空間で相手を現次元から切り離す形で捕縛し、大鎌の刃を足下に生み出した歪空に突き刺し、閉鎖空間の周囲に大量に配置した歪空から死気の刃として同時に吐き出させ、相手を跡形もなく切り刻む……でたらめにも程というものがあるぞ……」
リーヴの解説は誰も聞いていない。
倒された紫夜だけでなく、技を放ったタナトスの方も大鎌を握りしめたまま、前のめりに倒れていたからだ。
「まあ、あの女神の刻の弥終とかいう技からヒントを得て編み出した技なのだろうが……なぜ、あんな技ができる?」
死気で作った大量の刃で相手を切り刻むだけなら解る。
死気の刃こそ魂殺鎌の能力、そして、死気の刃の異常な数こそタナトスの『力』の量の凄さを現していた。
「問題は空間に干渉したということだ……それはソウルスレイヤーの領分ではない……」
力の量はともかく、力の属性だけはどれだけ強大な力を持っていようと容易に変えることはできない。
魔族が神属の力を、神族が魔属の力を使えないようにだ。
「……さて、とりあえずこれからどうしたものか? この場に放ったまま、奥に進んでさっさと野暮用を済ませたいところではあるが……」
流石にそれは拙い気がする。
別にこの死神の少女の面倒を見なければいけない義理も義務もないのだが……このまま放り出したりしたら、あの男に逆恨みされ、後で何をされるか予想がつかず……そんな面倒なことは絶対に避けたかった。
「それに……魔導機が飛来した直後に上から感じたアレは……ちっ、世の中面倒なことばかりだ……」
何者にも何事にも束縛されずに自由に……好き勝手に生きるということはなんて難しいことなのだろう。
どれだけのものを放棄しようと、どれだけ逃げようと、因縁、この世のしがらみはどこまでもついてまわるのだ。
「だが、私はどこまでも遁走を続けよう……そして逃れきれないしがらみは全て叩き潰す……真の自由を勝ち取る日まで……」
「要約すると、全ての責任を放棄して、自由気ままに怠惰に退廃的に生きたいのですね?」
リーヴの独り言にツッコミを入れてくる者がいる。
「ああ、その通りだ……て、貴様、居たのか……」
「とりあえず、タナトス様のことは私に任せて、先に進まれたらどうでしょう?」
「……そうだな、それが一番楽そうだ」
宙に浮かぶ揺り椅子に乗った魔女がいきなり姿を現しても、リーヴは取り乱すことはなく、マイペースに応じていた。



「ふん、やはり人形など所詮あの程度か」
「連動システムの修復、動力を魔力式から核融合式に変更……魔導時代の基本的な魔導機のスペックにまでなんとか引き上げたんですがね……やはり、魂殺鎌とタナトスの前には、ただのでかいだけの甲冑に過ぎませんでしたか」
コクマはなぜか楽しげな笑みを浮かべる。
「ふん、貴様にとっては全て最初から解りきった結末だったのだろう?」
「ええ、未来を視るまでもありませんでした。まあ、いいデータが取れただけでも良しとしますよ」
「あの人形と巨大甲冑どちらのデータを取るのが目的だったのか知らんが……実験台にされたあの人形も哀れなものだな」
「おや、意外ですね、あなたが同情されるのですか?」
「まさか、前にも言ったであろう……我に全てどうでもいいことだとな」
「ええ、そうでしたね。おや、どちらへ?」
「解りきったことを聞くな。次は我の番のはずだ」
「いやあ、困りましたね。ケテルさんも次に行きたいみたいなんですよ」
コクマは欠片も困っているようには見えない表情でわざとらしく言った。
「ふん、我の知ったことか」
男は裸の上に直接羽織った茶色のロングコートを翻し、部屋から出ていく。
「彼に、ケテルさん、ホドさん、ゲブラーさん、ビナーさんとケセドさん、ティファレクトさん、ミーティアさん、まだまだ先は長いですよ、タナトス……」
コクマはとても楽しそうだった。







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一言感想板
一言でいいので、良ければ感想お願いします。感想皆無だとこの調子で続けていいのか解らなくなりますので……。



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